経理コラム

年収アップは危険!経理経験者が他社に転職するデメリット

経理に学歴は関係ある?転職・昇進可能性は?

どの会社にも必ず存在する経理。
賢い経理マンであれば、今より良い待遇の会社に転職して年収アップや待遇アップを狙うのは当然のことだと思います。

その需要は高く、経理職専門の転職エージェントもあるくらいです。
広告を見ると、「経理は転職したほうがメリットだらけなんじゃないか」と思えますが、これは転職エージェントの戦略です。たくさんの経理マンが転職活動すれば、それだけエージェントに手数料が入りますから。

でも、カンタンに広告に騙されてはいけません。経理が転職するデメリットも頭に入れておかなくてはなりません。
年収アップができれば一見それだけで転職成功に思えますが、その考えは非常に危険です。
当記事は、転職エージェントに勤める現役キャリアカウンセラーが「経理が他社に転職するデメリット」についてまとめます。

【前提】経理の転職は年収アップできるケースが多い。

転職において希望する条件が年収だけであれば、経理マンなら高年収を狙えるケースが多いです。

経理という職種は、営業、販売、製造などの大量採用職種よりも年収水準が高いのです。
また、同じ管理部門の人事、総務などと比べても経理は特に専門性が高い代わりの効かない部署であることから高年収提示をされやすいのです。
他にも、以下の理由で経理経験者の転職して高年収提示されるケースがあります。

・前任者の退職で緊急に経理経験者が欲しいから
・経理部員を増員したいが、社内で育成するのは時間がかかるから
・優秀な人材確保をする為には年収提示で他社と差別化する他ないから

経理マンはどの会社でも転職しやすい為、高年収提示しなければ人材も集まらない為、採用する企業側も考慮して年収を提示します。
少なくとも転職希望者の現職、前職年収よりも上を提示することが多いです。
特に日本企業から外資系企業の経理職は高年収提示を受けやすいです。

外資系企業経理の転職に必要な英語力や資格は?現役マネージャーが回答
外資系企業経理の転職に必要な英語力や資格は?現役マネージャーが回答外資系企業の経理へ転職を検討しています。現職は歴史ある日本企業の経理職であり、英語を使う機会も海外取引する機会もほとんどなく、外資系企業は別世界すぎて不安もあります。外資系企業と日本企業の経理職にはどんな違いがあるのでしょうか。また、転職にあたり必要な英語力、資格、スキル等についても教えてください。...

経理経験者の転職は年収アップしやすいものの、それ以外の点でデメリットがある可能性があります。年収アップするということは、危険も潜んでいる可能性があるのです。

経理経験者だからこそ、安易に他の人に質問できない!

経理として転職すると、転職先の上司、同僚、部下も経験者として見てきます。イチから教えてくれることはありせん。
もちろん、わからないところは自分から質問するしかないのですが、ここで経理転職ジレンマが発生します。

この仕事わからないなー。でも、経理経験者なのにそんなことも知らないの?って思われそうだ…

こんなことを考えて抱え込んだり、自分なりの解釈で仕事を進めれば取り返しの付かないミスになりかねません。
しかし、いざわからないところを質問してみれば、実は会社(転職先)特有のルールであり経理経験者でも知らなくて当たり前のことだったりします。

転職面接では採用される為に自分のスキル・知識を高く見せようとするのはある程度は当然のことですが、いざ転職して働きはじめたらプライドは捨ててわからないことは素直に質問しましょう。
転職先の経理部員も、他の会社の経理マンがどんな仕事をしているかなどは詳しく知らなくて当然ですから、バカにされたりはしないはずです。いくら経験があっても、転職したては今までのやり方は一度忘れて新人のつもりで学び直す姿勢が大切です。

とはいえ、簿記のテキストに載っている内容くらいは…

同じ経理職でも会社が違えばやり方が違うので、経験者でも転職したてはわからないことがあって当然。転職先の先輩に聞くことは大切です。

とはいえ、簿記のテキストに載っているレベルの話は質問するものではありません。(簿記1級レベルの話は除きます)
経理知識の低さを露呈することになります。

わからないことはまずネットで調べるくらいはやってみましょう。
簿記資格所有者であっても実務で使っていない分野は忘れてしまうもの。
転職前に簿記のテキストを読んでおさらいしておくことをオススメします。

会計システムを学び直さなくてはならない

前職で使用していた会計システムを転職先企業の経理で使用しているとは限りません。
慣れ親しんだ会計システムを離れ、新たな会計システムを使うのは想像以上に苦戦するものです。

前の会計システムにあった機能がなかったり、ボタン操作が違うだけでもかなりの違和感があります。会計システムが使いこなせない限り、転職先で足手まといになりかねません。これは転職のデメリットです。

ただし、他の会計システムを知っているということはメリットでもあります。
システム改修や入れ替えをする際、積極的な提案ができる強みにもなります。

会計システム以外にも学び直すことは沢山

イチから学び直すことは他にも山ほどあります。
経理マニュアルや過去の会計資料など経理に直接関わる資料は当然です。

他にも、経理は他職種以上に社内規定を知って置かなければ仕事ができません。
出張規定、決済権限、組織規定、賃金規定…これらは会社によって大きく異なります。

また、会計システム以外の社内システムも操作方法を覚えなくてはなりません。
社内ポータルサイト、勤怠入力システム、顧客情報管理システム…

会社の人事異動では部署が変わろうとこれらのシステムや規定を覚え直す必要性はありません。転職して新しい会社のことを学び直すのには相当な体力が必要です。

会計ルールも会社によって違う

基本的にはどの会社も簿記の原則に従って経理業務をしていますが、細かいところはやはり違います。
仕訳ひとつにしても、会計ルールはひとつではなく、いくつかの処理方法が許容されています。

前職経理の常識にとらわれず、転職先の会計ルールを柔軟に受け入れていかなくてはなりません。今までの会社で常識と思っていたことは、会社が変われば非常識となることもあるのです。

転職によって昇進が遅れる可能性あり

経理経験者の転職に限った話ではありませんが、転職すれば良くも悪くも過去の評価はリセットされます。
通常は数年間高い人事評価が続く社員が昇進対象となります。
つまり、少なからず社歴が昇進に影響するのです。

いくら優秀な経理マンであっても、転職すれば新入社員。
上司からしても、昔から手をかけて成長した部下はカワイイもの。転職でいきなり優秀な部下が現れても、ダメでも昔から育てた部下のほうを応援したいに決まっています。
また、転職せずに前職にいれば昇進して年収アップしていた可能性もあります。
こういった点から、転職してすぐに昇進しようとするのは容易ではありません。

残業時間や休日出勤が増えることも

経理はなかなか激務な部署です。会社によって残業時間も大きく変わります。

転職先企業が採用募集をしていたということは、少なからず「人が欲しい」と思っていた証拠です。
「仕事が余って仕方なくて、経理メンバー全員が定時帰りしていた」という状況はあり得ません。
転職してから安定するまでは忙しい時期になることが予測され、転職先の他の経理メンバーも忙しくてピリピリしている可能性もあります。

残業時間や休日出勤の目安は求人票にも載っています。基本的には大きなブレはないと思うので、転職エージェントを活用している場合には聞いてみるのも良いでしょう。
時代的にはどの企業も残業時間削減に向けた取り組みはしているはずですが、それでも経理職は決算を固めない訳にはいかず、長時間労働となる会社もあります。

ワークライフバランスを重視したいなら残業時間や休日出勤については転職前にしっかりと確認しておきましょう。
いくら転職で年収アップしても、残業時間が倍増すれば転職成功とは言えないでしょうから…

見込み残業を導入している経理もある

私自身キャリアカウンセラーの仕事をしていて驚いたのは、経理職のような事務職でも見込み残業制度を導入している企業が意外と多いことです。

見込み残業は、営業職や企画職などデスクを離れることが多い職種で、上司のタイムマネジメント管理下に置きにくいパターンで多く導入されます。
経理職は基本的には内勤事務職なので、本来の見込み残業の意味合いには適していないように思えます。
しかし、営業中心の会社などでは職種によって勤怠形態を変えるのも難しい為、経理のような管理部門も含めて一律で見込み残業を導入しているケースが多いです。

見込み残業時間を40時間に設定している会社の場合、残業時間が40時間を超えた場合にのみ別途残業代支給があります。
多くの企業は見込み残業時間を超えることがないように設定しているようです。
いくら提示された年収が高年収でも、見込み残業40時間が含まれている場合は損することもあります。
経理という部署はいかに効率的に仕事を完了させるかが問われるので、見込み残業制にすることで少しでも早く帰る手段を考えさせるのは効率的なのかもしれません。

人間関係に悩まされることも

どんな大手企業でも優良企業でも、転職先の経理部の人間関係までは入社するまでわかりません。
特に上司によって働きやすいか否かは大きく変わる為、転職後に「前の職場のほうが良かった…」と後悔する可能性もあります。
年収や待遇も良いのに人が辞めてしまい求人を掛け続けている企業は人間関係に問題がある可能性もあります。

特に経理のような専門性の高い部署は上司も固定になり、異動する可能性は低いでしょうから転職先の上司は本当に重要です。内勤デスクワークである経理職は同じメンバーと一日中顔を合わせて仕事することとなります。転職面接では上司にあたる人が面接官となるケースが多いので、そこで見極めるのも一つの手段です。

中小企業の経理よりは大手企業のほうが上司がひとりで好き勝手できる環境下にない可能性が高いです。人数が少ない中小企業で部署のメンバーと合わない場合は最悪です。
職場における悩みのナンバーワンは人間関係とも言われます。
転職によって職場の人間関係が悪い会社で働く可能性もあるということを覚悟しておきましょう。

人間関係もイチから作り直さなくてはならない

経理という職種は社内の多くの人と関わる仕事です。
信頼を置いてもらえるかどうかで社内での仕事のしやすさは大きく変わります。

人間関係というのは一緒に仕事をした年数、会話をした回数、飲みに行ったりランチをした回数にも比例するもの。
今の会社で長年かけて構築した信頼は大きな財産です。転職することによって、この信頼はゼロに戻ります。まずは新しい会社の人の名前を覚えることからやり直さなくてはなりません。

同じ仕事力でも、社内での信頼関係がなくなることで上手くいかなくなるケースはよくあります。転職により良くも悪くも人間関係はリセットされます。
もちろん、転職後も地道に信頼関係を築く行動を心掛ければ仕事はやりやすくなります。
転職は面接でも、入社後もコミュニケーション能力が問われるのです。なかなか体力が必要になります。

業績ダウンにより経理業務が厳しくなることも

経理マンであれば、転職先企業の決算状況は必ずチェックしておきましょう。
端的に言えば、業績が上がっているのか、今後の業績アップが期待できるのかをしっかり考えましょう。
たとえ大きな利益を生み出している大企業であっても、伸び悩んでいる場合は予算達成に向けて厳しい状況になることもあります。

経理業務にも会社の業績は直結します。業績が悪ければ経理業務も忙殺されます。
減損処理、コスト削減案、費用計上調整などあまりやりたくない業務に繋がります。

仕事が忙しくても業績が悪い為に残業代は出せない…
「早く帰れ」と煽られる時短ハラスメントに繋がります。最悪の場合、サービス残業にもなり得るでしょう。

賞与ダウンで年収ダウンになることも…

年収には賞与額も含まれています。
基本的に会社の賞与は支給義務はなく、業績悪化した場合には減額やカット(支給なし)もあり得ます。

転職時に提示される年収は前年度賞与をベースとした見込年収。
将来的に業績が悪化すれば賞与額がガッツリ下がり、結果的には年収ダウンになることも。

ネットのクチコミも確認しておくべし

会社の採用募集広告を信じるのはキケンです。
少しでも魅力的に会社を見せる為にプロが作成したものです。

ネット上には現職者や退職者のクチコミ情報が掲載されていることがあります。
ピンポイントで経理職のクチコミでなくとも、会社の雰囲気、サービス残業の実態、昇進や昇給など求人票にはないリアルな情報を拾うことが出来ます。

もちろん、退職者のクチコミは悪く書かれていることが多いので信じすぎもNGです。

「転職しなければ良かった」と後悔しない為に…

転職には譲れない軸は必要です。
その軸が、年収アップということもアリだとは思います。
経理の転職は年収アップしやすいですが、年収だけを見て他をしっかり調べないと後悔することになります。

では、経理の転職で後悔しない為のポイントをまとめます。

・残業時間や休日出勤について確認しておくこと
・求人募集している理由を確認すること
・ネットのクチコミを見ておくこと
・業績確認をしておくこと

経理は転職しやすい分、焦って転職先を見つけると後悔します。
また、現職の会社の良いところがあるなら、転職せずに留まる選択肢もあります。

しかし、どんな企業に転職しても良いところと悪いところはあるものです。
当記事は決して経理職の転職をオススメしないという意図で執筆したものではありません。
転職するデメリットも必ずあるということを頭に入れておくことをオススメします。
(ライター:Kitagawa Mai)