「ストックオプション(SO)」という言葉を聞くと、「ベンチャーで一発当てる」「上場すれば数百万円、数千万円の利益になる」といった夢を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、実際にベンチャー企業で経理として働いてみると、その現実は意外と甘くありません。
この記事では、ベンチャー経理としてストックオプションを実際に受け取った立場から、メリットとデメリットの両面をリアルに解説します。
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ストックオプションとは?ベンチャーでよく使われる報酬制度
ストックオプションとは、将来的に会社の株をあらかじめ決められた価格で購入できる権利のこと。 上場や企業価値の上昇によって株価が上がれば、差額が報酬となる仕組みです。
ベンチャー企業では、資金力が乏しいため高い給与を支払えない代わりに、将来のリターンを社員に分配する目的でストックオプションを発行するケースが多いです。
特にCFOや管理部長クラスだけでなく、経理・人事などのバックオフィス職にも一定数付与されるようになってきています。
ベンチャー経理が感じたストックオプションのメリット
① 経営に参画している実感が持てる
大手企業では「株主」と「社員」が完全に分かれていますが、ストックオプションをもらうと自分も“会社のオーナーの一部”という意識が芽生えます。 経理として数字を追うのも、「利益を上げる=自分のリターンにつながる」という実感があるため、仕事へのモチベーションも上がります。
② 上場すれば一気に数百万円〜数千万円の利益も
実際に上場を果たした企業では、数百円で取得した株が上場後に数千円の価値になり、1回の売却で数千万円の利益を得たケースもあります。 「一度の上場で家が建つ」と言われるほど、リターンが大きいことも。
③ 経理・管理部門でも成果が報われる
営業や開発職に比べて評価が見えづらい経理でも、企業価値向上という形で成果がダイレクトに反映されるのは魅力です。 「裏方でも会社を支えてきた」という自負が報われる瞬間でもあります。
ベンチャー経理が感じたストックオプションのデメリット
① 上場・M&Aが実現しない限り価値はゼロ
最も大きなリスクは、会社が上場しなければストックオプションは“紙切れ”になるという点です。 IPO準備中に方針転換や業績悪化が起きると、行使価格を下回って意味がなくなるケースも珍しくありません。
② 税金の仕組みが複雑で、手取りが少なくなることも
行使時や売却時のタイミングによって課税方法が変わるため、せっかくの利益が税金でかなり減ることもあります。 特に経理職なら、税制改正やストックオプションの種類(税制適格/非適格)をしっかり理解しておく必要があります。
③ 退職すると権利を失うケースも
会社によっては「在職中のみ行使可」とする規定も多く、上場直前に退職すると全て無効になることも…。 長期的に会社に残る前提でしかメリットを得られない仕組みである点には注意が必要です。
体験談:ストックオプションで“数千万円”を手にした経理社員の成功例
一方で、実際にストックオプションで大きなリターンを得た経理社員もいます。 私の知人Aさん(30代後半・男性)は、上場準備中のITベンチャーに経理として転職。 上場3年前に入社し、CFO直下で決算体制の構築や内部統制の整備を担当しました。
当時は給与こそ前職より低かったものの、ストックオプションを1,000株付与。 上場時の株価は取得価格の約40倍に跳ね上がり、結果的に数千万円の利益を手にしました。
Aさん曰く、「経理のスキルを活かして会社を支えた結果、経営の成果を共有できた」という達成感が何より大きかったとのこと。 その後は得た資金をもとに、スタートアップのCFOへとキャリアアップ。 「ストックオプションは“宝くじ”ではなく、“努力にリスクを乗せる報酬”だと思う」と語っていました。
もちろん、全員が成功するわけではありませんが、IPOを実現した企業に在籍していた経理社員の中には、年収を超えるリターンを得るケースも現実に存在します。
体験談:期待していたストックオプションが“夢のまま終わった”話
私自身、かつてIPOを目指すベンチャーで経理をしていた際に、ストックオプションを数千株付与されました。 当時は「3年以内に上場」「株価100倍も夢じゃない」と言われ、正直ワクワクしていました。
しかし実際は、事業の軸がブレて上場計画は延期、資金繰りも悪化。結局、会社は大手にM&Aされましたが、買収価格が低く設定され、ストックオプションは無価値になりました。
それでも、IPO準備の中で学んだ知識やスピード感は、次の転職で大きな武器になりました。 結果的に“ストックオプションは儲からなかったけれど、キャリアの価値は上がった”というのが正直な感想です。
ストックオプションをもらったら注意すべき3つのポイント
- 契約書を必ず読み込み、「退職後の権利」や「行使期限」を把握する
- 税制適格か非適格かを確認して、税金対策を考える
- 「IPO=成功」と思わず、キャリア価値の向上にも目を向ける
この3つを意識することで、ストックオプションを“夢”ではなく“戦略的な報酬”として扱えるようになります。
まとめ:ストックオプションは夢ではなく「リスクを取る報酬」
ストックオプションは、うまくいけば一気に大きな利益を得られる反面、現実には報われないケースも多いのが実情です。 ただ、経理としてベンチャーの急成長を肌で感じ、IPOプロセスに携われる経験は何より貴重。
「儲け目的」ではなく「成長目的」で挑戦できる人こそ、ストックオプションを最大限に活かせる人材と言えるでしょう。

